深雪〜miyuki〜 第五話〜イヴ〜
相変わらず体を突き刺す様に吹く強い風。
その寒さを紛らわすかの様に静名さんが僕の腕を強く掴む。
裏「…あの
静名「うん…寒いね
…いやそこじゃないだろう。
裏「いや…、そうじゃなくて…
静名「なーに?
裏「…腕組むのやめません?
静名「寒いでしょ?
裏「いや、そりゃ寒いですけど…
この人には恥じらいってもんが無いんだろうか。
いや、それともただ単に僕が意識しすぎてるだけなのか。
しかもいつの間にかタメ口になってるし。
裏「…胸、当たってますよ
静名「へへーv良かったねv
裏「…いや、あの
静名「もー、ほんとは嬉しいくせにぃv
…この人こんな小悪魔キャラだったのか。
とりあえずラッキーと思ったのは此処だけの秘密にしておくとする。
裏「…別にそんなんじゃ
静名「んー?全くこの子は素直じゃないなぁ、それ
そう言うと静名さんはぎゅーっと一層強く僕の腕を掴んできた。
服の上から伝わる柔らかな感触、温かなぬくもり。
思わず硬直し、顔を赤くする僕。
やべ何だこのイベント。
ぼ、僕どっかでフラグ立てたっけ?
静名「赤くなっちゃって可愛い可愛いv
裏「別に赤くなってませんって…
静名「んー?こんなに頬を真っ赤にしちゃって何を言ってるのかなこの子はv
そう言って僕の頬を指で軽く突付きながら笑う静名さん。
苦笑いを浮かべる僕。
…何だか完全に彼女のペースに乗せられてる気がする。
静名「ねぇ、裏葉君
突如問いかけてくる静名さん。
裏「…はい?
静名「彼女さんのこと、好き?
毎度の事ながら脈拍の無い話題を振ってくる静名さん。
裏「好きっていうか…今日知り合ったばっかりですし
静名「えー、そうなの?
裏「路上で見かけて、その偶然…
静名「ナンパ?ふーん、裏葉君見かけによらずやるねぇーv
裏「いやいやナンパじゃないですって…
静名「そうだよねー、裏葉君ナンパなんてする度胸ある様に見えないもんv
裏「……
…いやまぁ確かにナンパなんてする度胸も無ければする気も無いけど。
裏「その…彼女、財布無くして困ってたみたいだったんで探すの一緒に付き合ってたんですよ
静名「へぇー、いいとこありますねぇお兄さんv
裏「あはは…、どうも
静名「で、結局落し物は見つかったの?
裏「……いえ
静名「…あらら
そう、結局のところ深雪たんの探し物は見つからなかった。
…それって実は彼女が僕と一緒に過ごした時間、その全てが無駄だったのと同義ではないか。
ふとそんな事を考え込んでしまう。
静名「…でも彼女、ずっと一人っきりで必死に探してたんでしょ?裏葉君が来てくれて心強かったんじゃない?
僕のそんな考えを見透かす様に静名さんが言う。
裏「はぁ、そうですかね
静名「ほらほら、もっとポジティブに考えなきゃー
裏「ポジティブ…ですか
静名「そうそう、ポジティブポジティブv
裏「…善処します
僕は相変わらず苦笑いを浮かべながらそう言い放つ。
静名「…ねぇ裏葉君
裏「はい?
静名「…キスしよっか
………。
……………あれ?
何 こ の 展 開 ?
裏「ぇ…あの…
困惑気味に声を漏らす僕。
静名「……
静名さんは目を閉じてゆっくりと僕に唇を近づけてくる。
裏「し、静名…さん?
静名「……
ほのかに頬を赤らめ、尚も唇を近づけてくる静名さん。
やがてその距離は彼女の吐息を肌で感じられるほどになった。
いや…あれ?あれれ?
フラグ?え?いつ?
頭をフルに回転させ、過去の選択肢を思い返す僕。
…いや、これと言ってそんな場面は無かったはず。
それでは今のこの状況は一体何なのだろうか。
突然の出来事に思いっきりテンパる僕。
静名「……なーんてv
裏「…へ?
何がおきたのかよくわからないまま、呆然と立ちすくむ僕。
静名「よーし、それっv
すると静名さんがとっさに僕の両肩に手を回し、抱きついてきた。
同時に彼女の体温が伝わってくる。
裏「おわ…っとと
思わず倒れこみそうになる僕。
…とりあえず何でこんな事になってるのか誰か説明して頂きたい。
裏「あ、あの…
金縛りにかかった様に身動きが取れなくなる僕。
静名「あははv裏葉君ってばほんと可愛いんだからー
裏「ちょ、ちょっと堺さん…
静名「しぃーずぅーなぁーちゃーん…でしょ?
裏「し、静名さんちょっと…
静名「…あったかいね
裏「え…と…はい…
静名「…へへーv
しばらくして身を離す僕達。
…結局なんだったのかよくわからない。
静名「…ね、いこっか
裏「…あ、は、はい
そして再び帰路へ着く僕達。
…何だか家までの距離が凄く長く感じる。
静名「明日、クリスマスイヴだね
僕が何を話せばいいかと戸惑っていると、静名さんが先に話題を振ってくる。
クリスマス…もうそんな時期か。
裏「…そうでしたっけ
静名「…もう、ちゃんと覚えておこうよ
裏「まぁ、僕には無縁なものですし
静名「…なんなら私が一緒に居てあげよっか?
裏「え?
静名「その代わりケソタッキー奢ってねv
裏「…あのね
この人、何処から何処まで本気なのかまるでわからないんですけど。
静名「さてと、それじゃ私はこの辺で失礼するね
裏「あ、はい
静名「明日、彼女さんと上手くやるんだぞー
そう言って静名さんが僕の肩をパンと叩いた。
裏「あはは…はい
静名「もし寂しくなったらおねーさんがいつでも慰めてあげるからv
裏「…っていうか静名さん、僕とそんなに歳変わらないでしょ
静名「あははv細かいことはきにしなーいv
…まぁ延々と突っ込みを入れていても仕方ないので黙っていることにする。
静名「それじゃ、またねーv
裏「はいはいっと…
静名「"はい"は1回だぞー?裏葉君?
裏「…はい
静名「うんうん、宜しい宜しいv
裏「あはは…、おやすみなさい
静名「うん、それじゃおやすみーv
手を振りながら静名さんに別れを告げる僕。
…何だか今日は本当に色んな事があったなぁ。
僕は一日を思い返しながら家へと帰って行った。
―深雪たん…また、会えるのかな。