早瀬深雪の失踪 I
―それはよく晴れた日の昼。
あの場所に行きたくて、私は街へと出掛けた。
勢いよく流れる透き通った雫。
それらは太陽の日を浴びて幾多の光を創りだす。
そこは街の噴水場。
小さなその街ではその幻想的に噴きだす噴水が街のシンボルになっていた。
その噴水場はいつしか街のシンボルであると共に、カップル達のデートスポットになった。
私と彼が初めてデートした場所。
それは大切な思い出の場所。
大好きな彼。
彼の事を考えると、私は自然とドキドキしてしまった。
今…何してるのかな。
会いたいな…。
そんな想いで胸がいっぱいになる。
そう考えているうちに私はいつしか頬を紅く染めていた。
…恥ずかしいな。
こんなところ彼に見られたらなんて言われるかな…。
「あ…
それは偶然か、それとも運命だったのだろうか。
私の…世界で一番大切な人。
世界で一番愛しい人。
私はふと、その人の姿を見つけた。
「うふふ
それがとても嬉しくて。
私はつい顔が綻んでしまった。
…いけないいけない、こんな顔じゃ彼に嫌われちゃうもん。
そう思っても私の顔は綻んだままだった。
すごく…胸が飛び出してしまいそうにどきどきしていた。
私がいきなり声を掛けたら彼はどんな反応をしてくれるかな?
喜んでくれるかな?
驚いてくれるかな?
…彼もどきどきしてくれるかな?
そんな事を考えていると楽しくてしかたがなくて。
私は一人くすっと笑った。
その顔は…きっととても幸せそうに映っていたと思う。
「ふふ、裏葉さ…
そうして私が彼に声を掛けようとしたその時。
― ドクン
え…?
私は…見てしまった。
私が世界で一番見たくなかった光景。
―それは本当に突然の出来事だった。
え … ?
私は目の前の現実が信じられなかった。
信じたくなかった。
大好きな彼は…裏葉さんは……知らない女の人とキスしていた。
…嘘。
こんなのは嘘。
私は夢を見ているんだと思った。
……違う。
それは確かに存在していた。
…現実だった。
余りに刻な。
目の前の世界が全て真っ黒に見えてしまうような。
そんな現実。
………どうして?
相手の女の人が誰かなんて考えられなかった。
…考えたくもなかった。
頬をつたい流れ落ちる雫。
いつの間にか私は涙を流していた。
それは流れる噴水の水の様に留ることなく流れ続けていた。
私は逃げるように走った。
ただその場所から消えたくて。
ただその場所から居なくなりたくて。
ただ悲しくて。
ただ…ショックで。
止まることなく涙ばかりが流れた。
私は…もう二度とこの場所には訪れないと誓った。
もう二度と恋なんてしないと…そう、誓った。