深冬〜Summer Days〜
―それはある夏の日のこと。
深夜、突然にジュースが飲みたくなった僕は家から徒歩10分ほど先にある自販機へと足を延ばした。
たかがジュース1本買うためにしては少々手間のかかる距離だが飲みたいものは飲みたいのだから仕方ない。
あの炭酸を飲まなくては僕の一日は終わらないのだ。
深夜だけにあたりはすっかり静まりかえっている。
うっすらと光る蛍光灯の灯り。
その光につられて寄ってくる無数の虫達。
時々に聞こえてくる蝉の鳴き声。
目を凝らすと見える幾多の夜空の星。
そんな夏の夜道。
―その時。
自販機へと向かっていた僕に一つある違和感が生まれた。
何かいつもと違う妙な違和感。
なんだろう。
そう思ってあたりを見回す。
すると、一つの公園が目についた。
いつも目にする、なんの変哲もないただの公園。
だけど、その日は違っていた。
淡い蛍光灯の光にうっすらと映る人影。
人が立っていた。
深夜、静まり返った公園に一人、ぽつんと女の子が立っていたのだ。
見た目、中学生…いや、高校生くらいか?
肩のあたりまであるだろうか、綺麗で長い黒髪がとても印象的だった。
スタイルも中々…って何言ってんだ僕は。
「君、こんなところで何やってんだい?
僕は、そんな彼女のことが気になってつい話しかけてしまった。
女の子「きゃ…
女の子は驚いた様に振り向き、僕を見てくる。
透き通った綺麗な声色。
不覚にも少しどきどきしてしまった。
女の子「ええと…、お兄さん、誰?
…まぁ妥当?な返答だろう。
「ん、まぁ怪しい奴じゃないよ、多分
女の子「こんな夜更けにこんなところに居るなんて、怪しくないわけないもーん
…ですよね。
「そういう君こそ、こんな夜中にこんなところで何やってるんだよ?
学生は夏休みな時期なんだろうが、それでも夜中に一人でこんなところに居るなんて、ちょっとあんまり無いだろう。
ましてや女の子ならなおさらである。
女の子「私はねー、ここで宇宙と交信してたんだ
「…は?
これはひどい、ひょっとしてなんか変なやつに話しかけてしまっただろうか。
女の子「私ね、宇宙人だから
「マジですか
女の子「なーんて、ジョーダンw
「…。
そう言って女の子は唇に手を当て、クスクスと笑う。
いや、そりゃ笑えねぇぜ。
「あのな、何を考えてるか知らないが、女の子が深夜に出歩いてちゃ危ないんだぜ?
と、最もらしいコトを言ってみる。
女の子「なんで?
が、彼女もまるで引き下がらない。
「ほら、僕みたいなのにも出くわすだろ?
女の子「だから?
「…いや、だからさ、危ないだろ悪い人なんかに出くわしたら
女の子「お兄さん、悪い人なん?全然そうは見えないけどw
「そう?
女の子「んー、どっちかってーと馬鹿っぽいかな?
皆さん、この小娘はひょっとして僕に喧嘩をお売りになってるんでしょうか。
「まぁ馬鹿言ってないでほら、はよ家に帰れ
女の子「ぶー…お兄さんたら頭かったいなー…
「お前な…
女の子「お前じゃないよ、深冬だもーん
みふゆ。
深冬。
女の子はそう名乗った。
見かけによらず…いや、見かけは可愛いが名前も可愛い。
くー、なんか納得いかないぜ。
「お前
深冬「お前じゃないって、深冬だよ
「お前
深冬「ん、お兄さんもしかして喧嘩売ってる?
「うん
深冬「ふぅん、ならいいよ大声出して叫んじゃうからw
「は?
深冬「きゃー、鼻息の荒い変態に襲われるーって
「そうか、まぁ帰れ
深冬「あ、ひどースルーかよー
女の子…深冬はそう言ってぷくーっと頬を膨らませた。
…なんかちょっと子供っぽい奴だな。
「…まぁいいからさ、早く帰らないとご両親が心配するぜ?深冬ちゃん
深冬「深冬でいいよ
「じゃあ深冬、さっさとお家に帰りなさい
深冬「そう言われても私帰る宛てなんてないし
「んぁ?お前の家があるだろ?
深冬「だーかーら、お前じゃなくて深冬!
「分かった分かった…分かったから深冬は深冬の家にだな…
深冬「いーの、だってここが私の家なんだもん
「は?
深冬はまたわけのわからんことを言い出した。
公園が家ってお前は何処のホームレスだYO。
「あのな、ここは公共の施設で深冬だけのものじゃないんだぞ
深冬「お兄さんたらいちいち説教くさーい
「だろ?
深冬「いや、褒めてないし
「ったく、あんまりぐだぐだしてると家に連れ込むぞ?
深冬「え、いいの?
「いや、いいの?ってお前ね…
深冬「…?んー?
深冬は本当に何も分かっていないかの様にきょとんとした様子で僕の顔を見つめる。
…やれやれ、なんだかしんどくなってきたぜ。
「あのな、仮にも知らない人の、しかも男の子のご自宅に連れ込まれようとしてるわけですよ
深冬「うん
「ほら、もうちょっと警戒したりとか…ねぇ?
深冬「あーやだ、お兄さんたらもしかしてえっちなこと考えてたり?
「別にそんなことありまくりです、本当に有難うございました
深冬「もー、いやらしいなぁ…
深冬はむぅーっとした表情で睨んでくる。
KO☆MU☆SU☆ME☆
「ま、そういうわけさ、分かったらとっとと帰りな
深冬「帰れないもん…
「…お前ね、なんだかよくわからんが親と喧嘩でもしたのか?
深冬「…うん
「…ふぅ。
つまりなんだ、家出娘ってところか。
ああいうのは都会の方だけに居るもんだと思ってたけどな…。
僕はふぅっと肩をなでおろし、話を続けた。
「仕方ねーな、だったら家の近くまで付いてってやるから…
めんどくさいとかジュースとか今更もうどうでもいい。
僕はただこの娘を一人で帰らせるのが心配でそう言った。
深冬「あのね…お兄さん
「なんだ?
僕がそう言うと、深冬はさっきまでとは一転し、強ばった表情で俯き加減に話してきた。
深冬「私、私ね?
「おう
深冬「…捨てられちゃったんだ、私
「……。
「………………は?